1.
TEXHNOLYZE元ネタ作品鑑賞を目的に、映画『オルフェ』を各自同時鑑賞するイベントが、
K-night氏の主催により行われました。その際、もはやTEXHNOLYZEとは関係なく、
ラジオの詩のニュアンスが話題に。

そこでラジオの詩の、各媒体における表記を、対比できるようにまとめます。詩に表面上の意味は無いのだから
穿ってもそれ以上の情報には行き当たらない…とは知りつつも、指でさえずるくだりなど新たな発見があったのは事実ですので、ここに記しておきます。
なお、ラジオの詩は何者かなど
前提となる知識は、前記事「
ラジオから流れる短文(TEXHNOLYZE第19〜20話)は何者か」を参照のこと。
2.
同鑑賞会の翌日、
TEXHNOLYZE北米版DVDの英語字幕および解説を、豪州在住の
いちは氏がTwitterで紹介なさっていました。その解説は予想をはるかに超えて詳細だったので、併せて(というよりむしろ解説をメインに)記録させていただきます。
解説は引用ではなく、意味が変わらぬ範囲で大幅に書き換えました。というのも、他の記事に書いたように私は「TEXHNOLYZEのラジオの詩は、
(株)IVC発売のDVD日本語字幕から引用した」という前提に立っており、そこを疑う意図はないからです。原文も併せて参照ください:
凡例。以下の各行は、
a):TEXHNOLYZE作中のラジオの音声。
b):(株)アイ・ヴィー・シー発売のDVDの日本語字幕。
c):吹替版音声。3種あるらしい吹替版のうちいずれかは不詳。
d):Amazon Prime Videoの日本語字幕。
e):同、英語字幕。
f):TEXHNOLYZE北米版DVDの英語字幕(情報提供:いちは氏)。
▽ a)沈黙は後退する 繰り返す
b)沈黙は後退する/繰り返す 沈黙は後退する
c)沈黙は すぐに後退する 3回 繰り返す
d)静けさは 2倍の速さで後退しているようだ/静けさはどんどんと後退するばかり/繰り返す 静けさはどんどんと後退するばかり
e)Silence is twice as fast bacwards... three times
f)Silence recedes. I repeat. |
▽いちは氏の解説: (主に、上記e)とf)の差異を考察したもの)
「後退」という語は、単に「後ろへ下がる」のほか、「勢いが衰える」「程度が低くなる」「無くなっていく」イメージも表す。そこをf)TEXHNOLYZE北米版では動詞recedeで表現。e)オルフェAmazon Prime英語字幕は副詞backwardsで表現し、更にtwice as fastという修飾句も加わっている。
f)TEXHNOLYZE北米版のrecedeには、去っていく、遠のく、薄れる、弱まるという意味が含まれ、後ろに下がるよりは、何かから遠ざかっていく、離れていくイメージがある。
対してe)オルフェAmazon Prime英語字幕のbacbwordsは、後ろへ下がるだけでなく、not advancedという意味も含む。これは、衰退していくイメージが強い印象。(ちなみに副詞体のbackwardにsを付けるのはイギリス英語の表現のようなので、オルフェのAmazon Prime英語字幕を付けた者はイギリス英語圏の人である事が分かった。)
f)TEXHNOLYZE北米版がシンプルなのは、簡潔なa)TEXHNOLYZE日本語音声から訳したからと思われる。一方で、a)TEXHNOLYZEで何故「twice as fast」が抜け落ちたのかは不明。d)オルフェAmazon Prime日本語字幕は「どんどんと後退するばかり」となっているので、元の仏語にはtwice as fastのニュアンスが含まれている可能性が高い。このtwiceはasが付いているので「2回」の意味合いではなく「はるかに」というように後の語を強調する使い方。d)オルフェAmazon Prime日本語字幕に「どんどんと」が含まれるのも納得できる。
▽ a)たった1杯の水が世界を明るくする
b)コップ1杯の水が世界を明るくする
c)注意 傾聴せよ ただ1杯の水が世界を照らす 2回 繰り返す
d)コップ1杯の水で 世界はいっぺんに明るくなる
e)One glass of water illumines the world... twice
f)Only one glass of water brightens the world. |
▽いちは氏の解説:
e)オルフェAmazon Prime英語字幕とf)TEXHNOLYZE北米版の違いは、「only」の有無と、ilummine/brightenという異なる語が使われている点。
a)TEXHNOLYZEの「たった」は独自の表現か、元の仏語にonlyのニュアンスが入っていたのか定かではない。
[※ラガードー註。onlyは、和訳とは別次元の話で、TEXHNOLYZEの脚本の問題。つまり、a)とb)が明らかに異なるのはここだけであり、only(たった)を含意するのもa)TEXHNOLYZEだけ]
f)TEXHNOLYZE北米版の動詞brightenは、一般的な「明るくする」のほか、華やか、陽気などポジティブなニュアンスを含む。
対してe)オルフェAmazon Prime英語字幕の動詞illumineは、フォーマルな表現かつMiddle English(中世英語)。現在はilluminateが使われるのが一般的らしい。illumineの語源はOld Frenchのilluminerなので、「オルフェ」の仏語がilluminerなのかもしれない。基本的にはbrightenと同じ意味だが、英英辞書には「unclear or difficult to understand, you make it clearer by explaining it carefully or giving information about it」とあり、解明するといった意味も含む。(元の仏語がilluminerだとして)「(グラス)一杯の水が世界を解明する」と表現してもカッコ良さそう。
▽ a)鏡は思考力を増大させる ひとたび繰り返す
b)鏡は思考力を増大させる
c)注意 傾聴せよ 鏡は実像よりはるかに良く映すべきだ 3回
d)(なし)
e)The mirrors would do well to reflect again... three times/I repeat...
f)A mirror improves the ability to think. I repeat once.(英語音声は「I repeat again」) |
▽いちは氏の解説:
かなり表現が違っていて面白い。まず冠詞がaかtheで意味合いが変わってくる。即ち、a)TEXHNOLYZEは単に鏡一般を指しているのに対し、e)オルフェAmazon Prime英語字幕は特定の鏡を指しており且つ複数形。
a)TEXHNOLYZEとf)TEXHNOLYZE北米版の意味はかなり近い一方で、e)オルフェAmazon Prime英語字幕はまるで異なり、「would do well to do 〜」というフレーズが使われている。これはshouldに似て、誰かにアドバイスやおすすめをする時にいう控えめなフレーズで、to reflect againを勧めている状況となる。「(特定の)鏡は、もう一度映すことをすすめる」という意味合いになると思われる。
[※ラガードー註。againを「更に良く」と意訳した(元の仏語はそのような意味合いと思われる)のが、c)オルフェ吹替版の和訳が理解できる]
ところで、どこから「思考力」という言葉が出てきたか。「reflect on 〜」ならば熟考するといった意味になるようだが、前置詞なしで「思考力」という訳は考えにくい。
もしかすると元の仏語はthat節になっていて、「to reflect (that ○○) again」(○○をもう一度熟考する)という文かもしれない。だとすれば直訳では「(特定の)鏡は、もう一度(○○を)熟考することをすすめる」となり、思考力とも訳せるのかもしれない。
▽ a)鳥は指でさえずる 繰り返す
b)鳥は指でさえずる
c)鳥は指で 歌を歌う 1回 繰り返す
d)鳥は自らの指で歌を奏でる
e)The bird sings with its fingers... once
f)The bird sings on the finger. I repeat. |
▽いちは氏の解説:
ほぼ前置詞の違いだけだが、まるで意味が変わってきて面白い。f)TEXHNOLYZE北米版は指の上でさえずる(歌う)という意味。一方のe)オルフェAmazon Prime英語字幕は“自らの”指でさえずる(歌う)という意味で、暗喩的な表現としても受け取れる(日本語面白い……!)。
[※ラガードー註。個人的に今回の上映会の最大の発見がこれ。同じフランス語でも訳す者によって細部は当然異なるので、b)IVCの日本語字幕とd)オルフェAmazon Prime日本語字幕の訳を比べ、意味が補完されることもある。「指でさえずる」の“で”は、「動作・作用の行われる場所・場面を表す格助詞」と思っていたが、そうではなく「動作・作用の手段・方法・材料などを表す格助詞」だったとは…。
即ち、「鳥が、人間の指に止まって鳴く」絵をずっと想像していたが、そうではなく「鳥自身が、声帯ではなく指を用いて鳴く」だったとは…。
参考1. 格助詞“で”。
参考2. 鳥類に指があるのか調べたところ、あるらしい。笠岡市立カブトガニ博物館Webサイト参照]
どちらも「さえずる」を、小鳥がチュンチュン鳴くようなtwitterやchirpを使わず、singとしているのが詩的な表現でなるほどなと感心。ちなみにd)オルフェAmazon Prime日本語字幕は「鳥は自らの指で歌を奏でる」なので、元の仏語(=映画「オルフェ」製作者の意図)はe)オルフェAmazon Prime英語字幕の意図を汲んでいると分かる。
ところでもしこれが「The bird twitters with its fingers」だったとしたら、完全にTwitterを指しているではないか。

↑Amazon Primeウォッチパーティのチャット欄。K-night氏画像提供。
K-night氏「この反応は大爆笑」
いちは氏「完全にTwitterの事を指しているじゃないか……と、先日のウォッチパーティー上のチャットを思い出して笑ってしまいましたw」
▽ a)38、39、40、2回 繰り返す
b)38、39、40、2回 繰り返す
c)38、39、40、2回 繰り返す
d)38...39...40...2回 繰り返す
e)Thirty-eight/Thirty-nine, fourty... twice/I repeat...
f)Thirty-eight, thirty-nine, fourty. I repeat twice. |
▽いちは氏の解説:
違いはtwiceの位置くらい。f)TEXHNOLYZE北米版は「2回繰り返す」という一つの文章であるのに対し、e)オルフェAmazon Prime英語字幕は独立した「2回」という暗号めいた単語が続いている感じ。a)TEXHNOLYZEは「2回」と「繰り返す」の間に少し間があり、e)オルフェAmazon Prime英語字幕の特徴を踏襲している。
▽ a)(なし) b)注意して聞け c)注意 傾聴せよ 2,294 2回 7,777… d)注意して聞きなさい 二千二百…94 2回 e)Twenty-two hundred and ninety-four... twice f)(なし) |
[※ラガードー註。a)TEXHNOLYZEに登場しない詩が2編あり、これが1つ目。なおc)オルフェ吹替版の声は更に数字が続くが、登場人物のセリフと重なり聞き取りにくい]
▽ a)注意して聞け 未亡人のベールは太陽の昼食 繰り返す
b)未亡人のベールは太陽の昼食/繰り返す 未亡人のベールは太陽の昼食
c)未亡人の黒いベールは太陽の本当の食事 1回 繰り返す
d)若き未亡人のベールは輝かしき太陽の昼食/繰り返す
e)The vails of young widows.../...are a true feast of bright noon... once
f)Listen carefully. The widow's veil is the sun's lunch. I repeat. |
[※ラガードー註。a)TEXHNOLYZEにのみ唐突に出てくる「注意して聞け」は、ひとつ前の詩のうちb)IVCの日本語字幕で書かれている部分(=「注意して聞け」)が使われている。ただしこれまでのc)オルフェ吹替版から想像するに、多くの詩の前置きで「傾聴せよ」と言っているようだ]
▽いちは氏の解説:
鏡もそうだが、日本語の名詞は単数か複数かをあまり自明しない。意図的に複数形にするより他の文脈で捉えることが多く、確かにa)TEXHNOLYZEのみを元にf)TEXHNOLYZE北米版を作ると単数形になる。
着目したいのは、e)オルフェAmazon Prime英語字幕では未亡人が若い(young)点と、f)TEXHNOLYZE北米版の「the sun's lunch」に対しe)オルフェAmazon Prime英語字幕は「a true feast of bright noon」である点。
f)TEXHNOLYZE北米版に「young」がないのは、単に表現をシンプルにするための省略か。
実は、e)オルフェAmazon Prime英語字幕には「太陽」を意味する単語が無い。bright noonは「昼」であり、英英辞書では「太陽」につながる意味が見つけられなかった。ただ、d)オルフェAmazon Prime日本語字幕には「太陽の」とあり、元の仏語には「太陽」を示す言葉があるのだろう。
また、feastは特別な食事、宴会、饗宴、または祝日等を意味し、昼夜は関係ない。ただし、a)とd)どちらの日本語訳も昼食と訳されているので、これもまた元の仏語には「昼食」に近いニュアンスの言葉が使われているのだろう。或いはe)オルフェAmazon Prime英語字幕を直訳すると「若き未亡人たちのベールは輝かしき正午の真の宴」となるので、「正午の宴」を「昼食」とどちらもシンプルに表現したのかもしれない。
敢えて詩的な表現にするなら、「輝かしき正午の真の宴」も面白いと個人的には思うが、直訳調を避けたのか。TEXHNOLYZE的には“祭り”を連想させるfeastが似合いそうではある。
▽ a)(なし) b)ジュピターは破滅させる者を賢くする/繰り返す ジュピターは… c)ジュピターは賢者にする 失いたい者を 繰り返す d)ジュピターは破滅者に入れ知恵する/繰り返す e)Jupiter enlightens those he would destroy f)(なし) |
[※ラガードー註。a)TEXHNOLYZEに登場しない詩が2編あり、これが2つ目]
詩の対比はここまで。これらの詩を追究したところでTEXHNOLYZEもオルフェも理解が深まる訳ではない筈ですが、それはそれで言葉の表現を観察する機会に恵まれました。

↑同時期に行われていたs.e.lain名台詞総選挙の投票済み画面を模した、ラジオの詩の紹介。K-night氏制作によるコラージュ。関連リンク。
・
黄昏の映画館「オルフェ」。鑑賞会を企画・主催したK-night氏による解説など。
・
ラジオから流れる短文(TEXHNOLYZE第19〜20話)は何者か。
・
TEXHNOLYZE19〜20話、原典私設資料集。
・
TEXHNOLYZE同時視聴会、私設覚え書き集。
・
K-night氏にDVDを借り初めて「オルフェ」を観た際の駄文。10年以上前か…。
posted by Lagado at 20:43|
Comment(0)
|
カテゴリ無し
|

|